石原慎太郎研究会著
『石原慎太郎と巨大港湾利権〜東京湾有明北埋立事業の無謀〜』
中山敏則
・著 者:石原慎太郎研究会 ・書 名:石原慎太郎と巨大港湾利権 ─東京湾有明北埋立事業の無謀─ ・発行所:こうち書房 ・発売元:桐書房 ・価 格:1600円
本書は、東京都の有明北・旧貯木場の埋め立て事業をめぐる石原慎太郎都知事と都港湾局、国土交通省、マリコン(海洋土木業者)などの癒着構造や巨大利権をえぐっている。著者は、ジャーナリストの久慈力氏が編集代表をしている石原慎太郎研究会である。
●海洋土木利権勢力にくみする石原都知事
旧有明貯木場(通称・十六万坪)は、東京湾深奥部に残された貴重な江戸前の海として知られている。江戸前ハゼの貴重な生息地でもある。絶滅危惧種のエドハゼが発見されたのをはじめ、20種近いハゼやさまざまな魚の幼魚が生息している。そのため、ここの埋め立てにたいしては、自然保護団体や釣り人、釣り船業者などの反対運動が広がり、計画を見直せとの世論も強い。ところが、石原都知事は昨年(2000年)9月、埋め立て工事を強行した。
本書はこれを、豊かな海域を破壊する無謀な行為とし、次のように述べている。
「誰よりも『日本の文化』『江戸の文化』の大切さを訴えてきた作家としての石原慎太郎。しかし、その張本人が日本の港湾利権勢力にくみして、最後に残った江戸前の海を抹殺し、江戸前の生き物たちを絞め殺し、江戸前の豊かな海が育ててきたさまざまな文化、風物詩を消滅させようとしている。江戸時代から続いてきた釣文化、料理、和竿の文化、屋形船の風物詩、最も豊かな浅瀬、代表的なハゼの楽園、穏やかな汽水域……。
ディーゼル車規制や外形標準課税の問題で、はでなパフォーマンスを繰り返してきた石原東京都知事。しかし、臨海副都心の一角、有明北地区の埋立問題では、その独自色がまったく発揮されていない。『行政改革の断行』を叫び、『公共事業のばらまき』を批判する石原であるが、この問題では、埋立を強引に推進する東京都港湾局、港湾局OB、国土交通省港湾局、ゼネコン、マリコン(海洋土木業者)、金融機関などの勢力の意のままに動いているようにしかみえない。」
●石原知事は、海の生態系に無知
「十六万坪」の埋め立ては、石原が都知事になってから計画進行が速まった。江戸前ハゼが消滅することについて、知事は都議会で「ハゼはどこかに移るでしょう」と言ってのけた。これについて本書は、「『ハゼの楽園』が消滅すれば、東京湾のハゼは激減してしまい、大打撃をうける。港湾局によって造られた深い港は、酸素が供給されず、ハゼの生息には適さない」と指摘し、都知事の発言を「海の生態系に無知」「暴言のたぐい」としてきびしく批判している。
結局、石原知事は、現場を公式に視察したり、漁民や釣り人、釣り船経営者、地元住民の話を一度も聞かないまま有無を言わせず工事を強行した。ここには、石原知事の住民無視の姿勢が如実にあらわれている。
本書はまた、工事強行のウラに、海洋土木関連の建設業者や団体、政治家、都港湾局、国土交通省(旧運輸省)港湾局などの癒着があることをくわしく述べている。埋め立て工事がゼネコンやマリコンの談合によって進められていること、また、海洋土木関係の公益法人や業者に旧運輸省港湾局や都港湾局のOBが数多く天下っているなどである。石原知事自身が、運輸大臣を経験し、港湾利権と深いかかわりをもっていることも明らかにしている。著者らの情報公開請求によって、都が運輸省に埋め立て認可申請を出す前に工事に着手していたことも判明した。この点については現在、行政訴訟に発展している。
●臨海開発推進で、都民は大きな犠牲を強いられる
この書は、都の深刻な財政状態も問題にしている。2001年度末の都債発行残高は、過去最高の7兆80000億円に達する。普通会計や特別会計、公営企業会計のほかに外郭団体を含めた都の借金総額は約20兆円にのぼっており、「都の絶望的な借金体質は、石原時代になっても少しも変わっていない」と指摘している。
こうした財政悪化の最大の原因の一つは、臨海副都心開発を含む公共事業の拡大である。同開発関連の会計はすでに巨額の赤字をかかえて破産状態にあり、このまま埋め立てなどの開発が進めば、都民はさらに大きな犠牲と負担を強いられる、と警告している。
●「生き物のゆりかご」の破壊に抵抗する活動を紹介
本書は、埋め立てについてこう記している。
「これまで埋立用の土砂は、房総半島の山を削って運び込んだため、巨大な自然破壊の爪痕を残してしまった。埋立は、海域と丘陵地帯で二重の自然破壊をしてしまうのである。逆に言えば、埋立は、海でも山でも二重の利権構造をもたらしてしまう。」そして、「生き物のゆりかご」の破壊に抵抗し、東京湾の豊かな海を守るために奮闘している市民団体や自然保護団体、釣り人などの活動を紹介し、本書が「再度、漁民、釣り人、住民、環境団体、政党などの反対運動が盛り上がり、港湾事業の利権構造が徹底してあばかれ、湾岸域環境保全法のような法整備がなされ、海域の乱開発ストップの一つにきっかけになれば幸い」と書いている。
ご覧のように、本書は「なぜ、石原は有明北埋め立てを強行するのか」を問題にし、その核心に海洋土木利権と政・官・業の癒着があることを具体的な数字と事実にもとづいて明らかにしている。これは、全国各地の埋め立てにあてはまる問題でもある。ぜひ多くの人々に読んでいただきたいと思う。
(2001年4月)
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