人口急増の流山市 その実像と問題点

人口増加率が全国792市で4年連続1位

市民オンブズマン流山 小田桐たかし(流山市議会議員)


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 流山市は千葉県北西部に位置し、面積は35kuとコンパクトで、人口20万人を今年(2021年)1月に達成しました。北は野田市、南は松戸市、東は柏市、そして西は江戸川を挟んで埼玉県三郷市となります。

 JR武蔵野線と東武野田線(現東武アーバンパークライン線)が走り、2005年には東京秋葉原と茨城県つくば市を結ぶつくばエクスプレス(TX)が開業(20駅中、流山市内3駅)しました。流山市は、TXのほぼ真ん中に位置し、都心まで25分弱で行ける利便性の高い「街」と言えます。

 利便性と引き換えに、TX沿線開発(区画整理)が宅鉄法により大きな面積で実施されました。流山市内で実施された区画整理の面積は東京ドーム145個分です(市面積の5分の1)。平均減歩が45%であることや、貴重な森林が大量に伐採されることから、住民運動が展開されました。

 また、オオタカが営巣していた「市野谷の森」は、森林に加え、えさ場となる田畑・雑種地などが約50万uも開発の影響を受けました。18.5万uの人工森林へ激減し、5.6万uの区画整理による近隣公園と一体で一部保存される計画です。


人口増加率4年連続「1位」の実像

 流山市は人口増加率で4年連続1位(全国792市中)を誇り、マスコミなどにも注目を集めています。

 一方、コロナ禍のもとでひっ迫や崩壊が指摘され、多くの国民が関心をあつめた医療環境は、千葉県内37市の中で「医師数」28位、「看護師数」25位、「病床数」35位、「医療施設数」31位(平成30年度、人口1万人当たりの比較)となっています。つまり、その都市や街の評価を「人口増加率」だけで判断することの危うさを示しているのではないでしょうか。

 医療環境は行政の努力だけでは語るべきではないという意見もあるでしょう。市長が力を込めた認可保育園整備では、施設数はこの10年間で11園(定員660人)から80園(定員5954人)と激増させました。結果、人口1万人当たりの「保育士数」は千葉県内37市中2位とトップクラスとなり、認可保育園運営費委託事業は約70億5千万円(2010年度の32倍)となっています。

 ここまで引き上げられた経緯には、老人福祉費(介護保険特別会計繰入金を除く20年度の老人福祉費は6755万7千円)の104倍も経費を投入する行政の全面的な応援があります。また、市長がシティプロモーションの一環で掲げた広告(「母になるなら、流山市。」)は、自治体独自の宣伝が少ない時期だっただけに、良い意味でも悪い意味でも目を引きました。市外で注目を集めた広告でしたが、市役所に大々的に掲示した途端、保育園に入れない保護者の怒りの声で取り下げられました。


「人口増加」が目的と化した都市

 大幅な人口増加を遂げた理由について、「TXの開業(平成17年7月)や沿線土地区画整理事業によるまちづくりに合わせ、『都心から一番近い森のまち』を具体的な都市イメージとして掲げ、共働き夫婦(DEWKS)をメインターゲットとしたシティプロモーションの推進などの成果」としています(令和2年度流山市行政報告書より)。

 流山市の人口動態では、この10年間で増えた約3万5千人は30代の子育て世代と子どもの増加が中心です。合計特殊出生率では、2010年度に全国平均を上回って、2019年度は1.59人となり、千葉県内で第1位(千葉県1.28、全国1.36)となりました。新生児が1年間に2000〜2200人誕生しているといった方がピンとくるかもしれません。

 出産祝金など他市にはない特別の施策がない中で、子どもの増加や合計特殊出生率の改善は大変喜ばしいことですが、ちょっと俯瞰(ふかん)してみると「危うさ」も混在しています。

(1)同世代誘致に潜む危うさ

 メインターゲットの夫婦共働き「子育て世代」とは、晩婚傾向を受け、30、40代が中心です。30年後、地域で一気に高齢化を招く恐れを残しています。

(2)プロモーション(宣伝)の危うさ

 夫婦といっても、「共働き」を位置づけた理由は、「高所得」階層だからです。流山市は、所得や世帯構成に関係なく公団等へ「人」を誘致してきた一昔前と違い、一定所得階層以上の「世帯」を狙い(ターゲット・特化)、誘致するプロモーション(宣伝)を行っています。したがって保護者の所得階層が反映する保育料は、首都圏100都市の中で一番高い保育料(3歳児一人当たり)となっています。裏を返せば、所得が厳しい世帯に対しては「誘致」も「定住」も望んでいない自治体、貧困の格差拡大を助長する自治体ということを意味する危うさも持ち合わせています。

(3)都市計画なき「人口誘致」の危うさ

 子どもを含めた人口増は、保育園のみならず、小中学校、廃棄物処理施設、上下水道などを必要とします。しかし小中学校は、増築・新設が相次ぎ、40〜50学級を抱えるマンモス校がいくつも誕生し、かつ学区変更が2〜3年おきに実施されています。

 それ以外にも、共働き世代が高層マンションに多く誘致されたおおたかの森駅周辺では、昼間と夜間の人口に大きな差が生じています。また、駅周辺は1万u100人という平均人口規模を7倍も上回り、区画整理で整備した公共下水道では不足しているため、新規配管を整備し、廃棄物処理量の増大に伴う経費増から、市指定のごみ袋導入・強制(現在は、透明・半透明の袋であれば、利用可)がすすめられています。


「都心から一番近い森のまち」の実態

 市がPRしている「都心から一番近い森のまち」も根拠が揺らいでいます。

 おおたかの森駅周辺は、駅名に反し、「今やマンションの森」という声が聞かれ、TX沿線以外でも市内各地で開発が活発化しています。江戸川に面し、オオタカのえさ場でもあった市内最大の集合農地(新川耕地)が「東洋一」と言われる物流センターの集積へ変貌するなど、市内の田・畑・山林はこの10年間で318万u(東京ドーム72個分)も喪失しました。

 市当局は「森」をPRするため、大量の街路樹、開発事業に対する大量植栽の指導等を実施しています。しかし、植樹に対する市の経費高騰、学校等公共施設整備における植樹面積の増大、管理不行き届きによる大量の植え替えなど、新たな経費増を招いています。

 フェイクニュースもあふれているSNS時代のいま、「見せかけ」に誤魔化されない目やアンテナを持つことが非常に重要です。今回発信した課題をさらに多くの市民と共有し、打開策をともに考え、さまざまな問題を乗り越え、住みよい流山をつくりあげる行政に近づくため、引き続き力を尽くします。
(2021年9月)











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