■書籍・書評

 銚子の自然誌編集委員会編

 『銚子の自然誌──生き物と環境のガイド・ブック』

大浜 清



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・編 著:銚子の自然誌編集委員会
・書 名:銚子の自然誌〜生き物と環境のガイド・ブック
・発行所:たけしま出版
・価 格:2000円



 戸石四郎さんから贈られたこの本を深い感慨をもって読んだ。
 1971年、東京湾の臨海開発に対する埋め立て反対運動(千葉の干潟を守る会ほか)と、高宕山・清澄山系の尾根筋を通そうとする房総スカイライン計画への反対運動(木更津みちくさ会ほか)と、海と山の二つの運動が発火点となって「房総の自然を守る会」(現千葉県自然保護連合)が生まれた。
 このとき集まった熱気ある市民や研究者たちの中でも、千葉県の環境運動・市民運動の先達としてリーダーシップを発揮したのが、1970年結成の「公害から銚子を守る市民の会」のメンバーであった。

 銚子における東電520万km火力建設反対運動は、学習活動という結び目を通じて教師・科学者と市民の連帯、そして全市民の立ち上がり、計画の断念という見事な成果をおさめた。
 沼津・三島の石油コンビナート反対運動と銚子の市民運動の系譜は、やがて大気汚染の回復を求める千葉川鉄の「青空裁判」勝利へとつながっていく。それは日本の環境市民運動史における特筆すべき事件であった。

 この本の第2部〈銚子の自然環境を考える〉を読むと、銚子の町の自然保護運動はすでに敗戦直後に発し、1965年(昭和40年)「銚子の自然を守る会」結成と、全国にさきがける運動だったのであり、今日の産廃問題にいたる種々の問題の発生と黒潮のように力強い市民運動のうねりとがここに語られている。まさに市民がつくった歴史であり、その中にいた戸石氏ならではの筆である。

 このような市民運動の牽引力、自立的な文化圏の形成力は、銚子という町の自然がもつ独自性と力強さに根ざしているのではないだろうか。板東太郎利根川を軸に太平洋に突出し、黒潮と親潮が寄り合う銚子地方は、日本列島の自然の集約点というべき豊かな生物相と、海と大地の力強いエネルギーをもっている。

 第1部〈銚子の自然をさぐる〉は、この自然圏の種々相――地学ガイド、自然植生から帰化植物、食中植物まで、谷津や磯の生物、野鳥から釣り、クジラまで、ナチュラリストや高校教師たちの協力によって綿密に記している。
 しかし、そこここに環境破壊はおしよせ、自然をむしばんでいる。
 巻末に添えられた50ページにおよぶ資料〈銚子の保護上重要な生物のリスト:レッドデータブック〉3000種は、この書にこめた著者たちの思いの象徴であろう。
 自然を愛する人々、図書館、学校にぜひ。

(2002年12月)  






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