佐久間 充著
『山が消えた〜残土・産廃戦争』
戸石四郎
・著 者:佐久間 充 ・書 名:山が消えた 〜残土・産廃戦争〜 ・発 行:岩波新書 ・価 格:700円
著者は千葉県自然保護連合の副代表でもあり、書評子がかつて同代表だった頃からの旧知である。また本文中では「産廃戦争──銚子付近」が取り上げられている。地元でその問題に関わるものとして、深い関心をもって一気に読了した。
著者の前著『ああダンプ街道』(岩波新書)も全国的に注目され、学佼図書館選定図書にもなったと記憶する。両書とも著者の地元・県中西部にねざした実態調査は、さらに千葉県全域や全国にも及び、ユニークな視点での分析報告になっている。あらましをまず紹介しよう。
本書は5章からなり、「T 経済発展の陰で」では山砂採取の変遷と経済発展の関係、山砂の「変身」が分析される。「U 開発が環境にもたらしたもの」の章では、山砂採取と、それに絡む産廃の環境影響、さらにゴルフ場との関連を、県内を例に分析する。Vは「残土・産廃戦争」と題され、「ダンプ街道」周辺の産廃銀座化、銚子付近など県内の深刻な実態、さらに全国の状況に著者の足と筆が及んでいる。Wは人々の暮らしはどう変わったか、その後の「ダンプ街道」の変貌が追跡調査される。「V 今後に向けて」の章では、山砂採取の限界や跡地の現状、砕石や海砂などを含む建材生産と業界の対応などを、海外も含めて紹介、それらと廃棄過程を関連づけた問題解決の道を提言して結んでいる。なお、「はじめに」「あとがき」も、著者の執筆意図、本書の狙いを知るヒントとなろう。
一読して受けた感銘と示唆の幾つかを述べよう。「ユニークな視点」の一つは、別個に扱われがちな「産廃」と「山砂〜建材」問題を、社会的物質サイクル系として捉えたところにある。水平的には里山→←大都市、里山→海(埋立)という物質移動ともいえる。「12億トン分の山が消えコンクリートジャングルにそこからの廃棄物が山の化身となって廃棄物の山並みを築きつつある」(あとがき。以下「 」は本書引用)のである。問題は上記サイクルが大量生産・大量廃棄優位に働き環境破壊を招く日本型システムにある、というのが著者の指摘である。
また、廃棄物、自然保護など環境問題の捉え方が平面的・二次元的なのが一般的であるが、著者は前著を含め、それら問題を垂直的・三次元的にも見ようとしている。U.環境影響の章での「地殻の隆起・地下水盆」、V.今後の項「武甲山」などでもそれが見て取れよう。
さらに著者が足で調べ、独自の観点で整理・分析した豊富な資料は貴重この上ない。例えば、県中西部の山砂採取量と都心高層ビル数との逐年相関グラフ、同上地域での「山砂ダンプと残土ダンプ」比較表など、極めて具体的である。着眼と調査の努力には感服のほかはない。
無い物ねだりを承知で、次に2、3点を指摘して置きたい。一つは「山が消え 列島が廃棄物で埋まりつつある」惨状を招いた社会的原因と、責任所在の追及がもっと厳しくあって欲しかった。「不法投棄全国一」の千葉県土は、「廃棄物山や 黄褐色の山砂採取場と緑のゴルフ場の巨大なまだら模様」で荒廃している。住民の訴えを無視してそれらを放置し、許認可を乱発して来た国・県の行政責任は重い。散々破壊を許したすえ『里山保全』とは今更何を、というのが実感ではないか。二つには、副題でもある残土間題の理論的な整理が必要ではなかったか。まえがきでも「廃棄物や残土」「残土などの建設廃棄物」などとされ、読者は混乱しかねない。ちなみに「残土」の定義は法的にも不明確だし、実態としても廃棄物と残土は混在しているので、この間題をどう整理するか今後の課題であろう。
なお「銚子付近」の報告は、海上側の資料・情報が主で、銚子サイドの情報が不足している。そのため銚子市域での不法投棄145万立方bが全国一、処分場集中や環境汚染も県内最悪であること、堂本知事がエコ処分場着工を許可した事実などの記載がない。また銚子の自然保護団体が自然破壊やゴミ戦争に「関心を持たないのは奇妙な話」という条りも事実に反する(銚子の自然誌・水辺環境報告書等を参照)。書評子のPR不足もあろうが、しかしこれはもちろん瑕瑾(かきん)であり、本書の真価を損なうものではない。
千葉という地域から全国、さらに地球への展望と、現地主義の調査からの立論。地域・国民の立場からの問題提起を続ける著者に改めて敬意を表し、環境問題に関心ある県内外の人々に、必読を勧めたい本である。
(2003年2月)
このページの頭に戻ります
「書籍・書評」のページにもどります
トップページ | 三番瀬 | ニュース | 自然・環境問題 | 房総の自然 |
環境保護団体 | 開発と行財政 | 自然保護連合 | 書籍・書評 | リンク集 |