■書籍・書評

 永尾俊彦著

 『ルポ 諫早の叫び〜よみがえれ 干潟ともやいの心

石井伸二



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・著 者:永尾俊彦
・書 名:ルポ 諫早の叫び〜よみがえれ 干潟ともやいの心
・発行所:岩波書店
・価 格:2200円


●諫早湾干拓は「世紀の愚行」

 いうまでもなく、諫早湾干拓事業は「ムダな公共事業」の典型である。農林水産大臣(谷津義男農水相)自身が「減反の時代に、今さら干拓じゃねえだろう」と言い、事業継続に懐疑的な姿勢を示した。しかし、農林水産省の官僚が強く抵抗し、事業が強引に推しすすめられた。
 農水省は、一方で減反を進めながら、他方では、莫大な税金をつぎこんで干拓(農地開発)を強行しているのである。
 この事業はまた、環境破壊の典型である。“有明海の子宮”とよばれた諫早湾を閉め切ったために、有明海は大異変が生じ、全域で漁業被害がおきている。ノリの色落ちなどである。そのため、有明海の漁業者が市民団体などといっしょになって、干拓工事の差し止めや排水門の開放などを求めて大運動を展開している。


●農民も漁民も農政の被害者

 同書は、こうした干拓事業をめぐるさまざまな問題を、それにかかわる人々の生の声を通してえぐったものである。
 干拓事業に反対している側だけでなく、「干拓推進派」の声も丹念に拾いあげている。干拓に賛成した漁民がなぜそうせざるをえなかったか、また、干拓推進派の農民がなぜ干拓を望むようになったかなどを明らかにしている。とらえ方は、平面的ではなく、立体的である。
 永尾さんは「あとがき」でこんなことを書いている。
     「わたしが書きたかったのは、諫早湾の干拓におしつぶされそうになりがらも、賢明に立ち向かっている有明海漁民の『叫び』だった」
     「マスコミで干拓『推進派』とされる諫早湾内の漁民や農民についても、その現場からの声を拾おうと思った。彼らもまた、半世紀にもわたってこの干拓に翻弄されてきた」
     「有明海の漁民も、そして諫早湾内の農民も漁民も農政の被害者だと言える。そして悲劇的なのは、農水省が干拓をゴリ押ししたがゆえに、その被害者同士が対立させられている状況だ」
     「この干拓の歴史をふりかえると、利害が対立している者同士の話しあいが決定的に欠落している。最終的には政治決着によるとしても、足して2で割る政治決着ではなく、同じ妥協でも、『妥協の芸術』を追求すべき政治家は、そういう話しあいの場をつくるためにこそ、働くべきではないだろうか」


●被害者同士が対立させられている悲劇に終止符を!

 同書を読むと、被害者同士が対立させられている悲劇的構造をなんとかできないかという著者の思いがひしひしと伝わってくる。
 ちなみに、本の副題に使われている「もやい」の意味は、辞書をひくと、「二人以上の者がいっしょに仕事をする」とか「共同で事をする」と書いてある。
 この本は、諫早湾干拓事業の全貌を理解するための格好の本である。ぜひ多くの人に読んでほしいと思う。

(2005年7月)  






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