★大規模開発の実態をみる

税金を払わない西武と千葉県政


開発問題研究会





1.税金を払わない西武

(1)創業以来まったく法人税を払っていないコクド

 西武ライオンズ(プロ野球球団)のオーナー、全日本スキー連盟やアイスホッケー連盟の会長、「帝王学」などで有名な堤義明氏は、マイクロソフト社のビルゲイツ氏と“世界一の大富豪”を争うほどの大金持ちである。昨年(1994年)は世界一の座をビルゲイツ氏に譲ったものの、それまでは毎年のように“世界一の大富豪”の座を守ってきた。
 その堤義明氏がひきいる“西武帝国”は、非上場会社のコクド(旧・国土計画)を中核企業とし、西武鉄道、西武不動産、プリンスホテル、伊豆箱根鉄道などで構成される一大企業グループである。西武帝国が日本全国に保有している土地は4000万坪とも5000万坪ともいわれており、その資産価値は、『週刊ダイヤモンド』誌がバブル期に推定したものによれば40兆円におよぶという。それぞれの企業についてみても、例えば全国各地にホテルをかまえるプリンスホテル、苗場スキー場、雫石スキー場などの有名スキー場をいくつも保有するコクド、さらに伊豆箱根鉄道、西武不動産などの顔ぶれをみれば、大儲けを続けている企業ばかりである。
 しかし、中核企業のコクドは、1920(大正9)年の創業以来、法人税を1銭も払っていない。プリンスホテルも同じで、「グループ内で法人税を払っているのは上場会社の西武鉄道ぐらい」と言われている。したがって、これらの企業は、自治体に払うべき法人住民税についても、事業所を構えれば自動的に取られる均等割部分しか払っていない。その均等割の額はわずかである。堤義明氏は、このように税金をわずかしか払っていないことを自慢さえしている。
 コクドなどがなぜ法人税を払わなくても済んでいるのか。そのカラクリについては、かつて、「国土計画が税金を払わない理由」(『AERA』1991年10月8日号)と「世界一の大富豪・堤義明『コクド』の研究−−なぜ『コクド』は税金を払わないのか」(『文藝春秋』1994年9月号。執筆者は立石泰則氏)がくわしくとりあげている。一言でいえば、大企業優遇税制をきわめて巧妙に活用し、徹底した節税対策をおこなっていることである。
 カラクリを要約すれば、こうである。中核企業のコクドなどは、銀行からの借金で事業を進めたり土地を増やすという手法を続けることによって、毎年の経常利益を一定して赤字スレスレの微妙な黒字にしている。そして、グループ企業間で株式の持ち合いを網の目のようにはりめぐらし、グループ内で受取配当金の控除を巧みに調整している。つまり、「赤字スレスレの経常黒字から受取配当金が控除されて赤字の申告所得」(前出『AERA』)となり、結果として税務署へ提出する申告所得が赤字の状態になっているため、法人税を1銭も払わなくてもよいというようになっているのである。
 コクドなどが法人税をいっさい払っていないことについては、当然ながら、「国税当局はなにをしているのか」「税金は取りやすいところから取っているのではないか」などという批判がでている。そこで国税当局も、過去、何回か調査に入った。しかし、西武の“節税”は、国税庁のOB、“優秀な”税理士や公認会計士、弁護士などのブレーンを多数抱えて税制のしくみを徹底的に研究し、緻密な計算・操作によって合法的に課税回避をしているものであり、“脱税”ではないということになっている。つまり、背景には、日本の大企業優遇の税制があり、堤義明氏はこれを徹底的に利用しているのである。


(2)相続税も巧みに節税

 堤義明氏は、法人税だけでなく、堤家の相続税も巧みに節税している。相続税節約のカギは、中核企業であるコクドを非上場会社にしていることである。前出『AERA』はこう記している。
 「非上場で利益の小さい国土計画(現在のコクド)が、上場企業の西武鉄道などを支配する。そして、その国土計画の株式の40%を堤氏が持つという構図。実は、この構図の裏には、法人税のほかに、もうひとつ重要な税金の秘密がかくされている。堤家の相続税問題である。例えば堤氏が個人で西武鉄道の株式を持っていたとする。時価は1株3000円を超えているからたいへんな資産価値である。もし、この株の相続が発生すれば、相続税は莫大な額になる。ところが実際の西武鉄道(株)の所有者は国土計画で、株式の評価額は帳簿価格の額面5000円で計算される。土地の場合も同様だ。極めて安い簿価が評価の対象になる。そして、堤氏が所有しているのは、非上場の国土計画株式。非上場企業は利益や試算を基準に時価が算定される。利益が少なく簿価の安い資産を持つ国土計画の場合、それほど高い評価額にはならない。相続があれば極めて安い相続税で済む、ということだ」
 このようにして、堤義明氏は、自らが支配する数多くの企業の法人税を払わないようにするばかりか、巧みに相続税対策を駆使し、「自分の資産を遺産として残し、それが目減りする事なく、代々受け継がれるようにする事」(前出『文藝春秋』)を実現させている。つまり「万全な税対策」といわれる堤式節税の遂行である。
 世界の長者番付を発表している米国の経済誌『フォーブス』は、堤義明氏を、「鉄道のほかリゾート地、24のゴルフ場、世界最大のホテルチェーンのひとつ、プリンスホテルを持っている。おそらく、世界一の金持ちは彼だろう」と紹介している(前出『文藝春秋』)。このように“世界一の大富豪”にあげられているほどの大金持ちが、法人税を満足に払わないし、相続税もわずかしか納めない。−−ここには、日本の大企業経営者の姿勢や日本の税制の不公平さが如実に示されている。




2.国民の税金で大儲けを続ける西武

(1)長野オリンピックと西武

 税金を払わない西武は、一方で、国民の税金を使って進められる公共工事などで大儲けを続けている。
 その一つの例は、1998年に長野で開催される冬季オリンピックである。このオリンピックは「西武のためのオリンビック」ともいわれているように、西武の儲けと密接にかかわっている。
 まず、長野オリンピックにあわせて優先的に建設が進められている北陸新幹線(長野新幹線)である。国と県が約4000億円を出して工事を進めているが、問題は新幹線の軽井沢駅で、この駅は西武が経営する軽井沢プリンスホテルの真ん前につくられる。駅とホテルの玄関を結ぶ都市計画道路(公道)も2本整備される予定である。おまけに駅のすぐ近くに別の都市計画道路も建設されるが、この道路はプリンスホテルスキー場のゲレンデ前にアクセスされる。軽井沢町はこうした駅周辺の整備費と側道地の建設費として1993年から3年間に80億円を支出する予定といわれているが、こうした公共工事の恩恵を最も受けているのは西武である。
 また、長野市内につくられる選手村と志賀高原の回転コース会場とを結ぶオリンピック道路(高規格自動車専用道路)も県の予算でつくられるが、この道路の終着点は志賀高原プリンスホテルの真ん前である。おまけに、その工事を請け負うのは西武建設(株)と言われている。
 ところで、北陸新幹線の路線は、当初の計画では軽井沢は通らないことになっていた。理由は、碓氷峠が標高1000メートルを超え、工事が技術的に難しいからである。ところが、計画図を見た堤義明氏が激怒し、当時の運輸大臣に電話をして計画のやり直しを求めたため、軽井沢を通るコースに変更されたといわれている(『週刊新潮』92年11月12日号)。
 同じようにオリンピック開催に関連して上信越高速道路が整備されているが、これも当初計画は軽井沢を通らないことになっていたのに、計画が強引にねじ曲げられて西武グループが経営する世界最大規模のゴルフ場(「軽井沢72ゴルフ場」)にアクセスされた。このように北陸新幹線と上信越高速道路が路線変更されたことについては、「どちらも地元出身の羽田(新進党副党首、元首相)が堤義明氏にプレゼントした」(『日刊ゲンダイ』94年4月29日号)とも言われている。
 そもそも、冬季オリンピックの長野誘致に最も熱心だったのは堤義明氏(当時・JOC会長)であるが、そのねらいは次のとおりである。
 「ひと言でいって、堤氏の目的はオリンピックを利用して自らの一大リゾート地を完成させようということ。それも自分は1銭も出さず“公費”を利用して、ということです。わかりやすく言うと、長野県下の焼額山や岩菅山がある奥高原周辺にはすでにプリンスホテルがあり、さらに西武が進出を予定している。そして志賀から下ったところには万座温泉があり、東へ行くと苗場があり、ともにプリンスホテルがある。つまり、新潟(苗場)、群馬(万座)、長野(志賀)を結ぶ一大リゾート地が完成されるわけです。が、どうにも長野側の西武施設への道路、鉄道などのアクセスの具合がよくないという事情があるんです。そこで、オリンピックをエサに、新幹線を通し、高速道を通し、ゴンドラをかけ、“税金”でそれらインフラを整備させようということなんです。アクセスさえ完成すれば、西武のリゾート地は忽(たちま)ち一流に生まれかわることになるんですから……」(『週刊新潮』92年11月12日号)
 いま長野県では、オリンピックの誘致費用20億円の帳簿が紛失して問題になっているが、地元では「五輪が終われば、国や県などが巨費を投じてつくった新幹線や道路で儲かるのは堤さんだけ」という話もでている。また、長野県庁では、「すべては堤義明とそのリゾート事業のために」が“合言葉”となっており(岩田薫『堤義明に勝った日』三一書房)、また、県職員の間では「すべては西武のために。すべての事業は堤義明社長の野望のために」というグチもでているという(『週刊金曜日』93年11月12日号)。


(2)全国各地で自然環境を破壊

 西武は日本全土で自然環境の破壊を進めていることでも有名である。ほんの一部をあげると、北海道根室地方別海町のバラサン沼周辺、埼玉県立奥武蔵自然公園の高摩丘陵、山形県八幡町の鳥海山(国定公園)、上越国境の稲包山、秋田県の森吉山などがある。
 特徴は、「地域の活性化」や「過疎からの脱却」を強く求めている地元自治体の弱みにつけこみ、西武経営のスキー場やゴルフ場、ホテルなどの建設やアクセス道路などの整備に地元が税金や土地などを負担すること、さらに、自然環境を破壊しまくることである。自然破壊についていえば、国立公園や県立公園内であっても、国や自治体の職員をうまく工作して開発を進める。西武が開発を進めるところでは、地元自治体は西武の“カイライ政権”となってしまう。
 東北各地で進んでいるこうした西武の開発について、たとえば『BOX』(1990年8月号)はこう記している。
 「国土計画の誘致を考える東北の村の実情と論理はこうだ。第一次産業が不振となり、村の基幹産業がなくなってしまった。そのために若者の流出が続き、人口は減る一方、高齢者の割合が高くなった。このままの状態が続けば、やがて村は消滅してしまう。(中略)利用できるのは村の発展を阻んできた雪である。この雪を活用する以外にはない。ならば、スキー場(なだらかな丘陵地帯であればゴルフ場)だ。しかし、地方交付税に頼る財政力では村営、町営のスキー場をつくるわけにはいかない。ならば、苗場、雫石などで“実績”のある国土計画を誘致しよう。論理の後には夢想がある。(中略)こうした村の実情と論理と夢想の結果、東北の山々に国土計画・西武鉄道グループの西武建設のブルドーザーが入り込み、ブナ林を根こそぎつぶし、引っ掻き傷をつくっている」
 同誌は、東北地方の各地で、コクドによってスキー場とゴルフ場とホテルの“3点セット開発”が進められ、それに伴って自然破壊が激しい勢いで進行していること、地元自治体がコクドのスキー場などのアクセス道路や簡易水道などに莫大な出費を強いられていることなどをくわしく書いている。さらに、スキー場などが完成しても、「地域振興」や「過疎からの脱却」にはあまり役立っていないことも述べ、こう記している。
 「当たり前の話だが、スキー場と町の中心部とはかけ離れている。23万人のスキー客は町を通って滑って帰るだけ。スキー場の周辺はコクド計画直営のレストランがあるだけで、過疎に苦しむ村とは無縁の世界だ」
 また、西武のあくどい商法や国土破壊などを批判しつづけている本多勝一氏(ジャーナリスト)はこう述べている。
 「この数年、私は国立公園や県立公園内での環境破壊とか、地球上に残された稀有な地域の自然保護問題について取材してきた。いちいち例はあげきれないが、要するに自然破壊や自然公園法冒涜の問題が起きているところを調べると、実に多くの場所で西武系(とくに国土計画株式会社=堤義明社長)がからんでいるのだ。国立や県立の自然公園に指定されているところを、日本ほど好き勝手に伐採したりスキー場開発したりできる野蛮な後進国は地球上にほとんどないほどだが、それに手を貸している国土破壊計画会社の典型が西武系なのである。いったいこの“国土破壊株式会社”は、わが祖国日本をどうしてくれようというのか。一説によると、西武系が買い占めた日本の国土はすでに四国の面積に匹敵するとか。四国といったら広大なものになるが、株式も公開せぬこの秘密会社が何をしているのか、確認は容易なことではない。しかし都会のバカ高い土地と違って、西武が観光開発として狙うような山や過疎地帯は、もうタダみたいな値段だから、この説も資金的には決して不可能ではないだろう。しかも地元民の多くは、単に馬の前にぶらさげられたニンジンの近視眼的無知と目先の利益に導かれ、郷土の真の価値を破壊してゆく開発会社を『誘致』するのである。新植民地主義下の『発展途上国』と、『北』の先進国との関係そっくりに、“現住民”の政府(多くは『先進国』のかいらい政権)がのぞんだからという錦の御旗のもと、堂々と『開発』(侵略・破壊)してゆくのだ」(『貧困なる精神』第19集、すずさわ書店)
 こうした西武の自然環境破壊に対して、全国各地で反対運動が起きている。たとえば1989年、堤義明氏は長野冬季オリンピック招致委員会の名誉会長に就任すると、直ちにオリンピックの滑降コース候補地に西武経営のスキー場である志賀高原の裏岩菅山を予定すると発表した。ねらいは次のとおりである。西武(コクド)は、志賀高原に焼額山と五輪山という2つのスキー場をもち、さらに岩菅連峰を越えると、上越の苗場、三国、中里にもスキー場を保有している。これらのスキー場をロープウェイで結んでネットワーク化し、群馬、新潟、長野の3県にまたがる総延長50キロメートルの「夢のスーパー・スキー・ネットワーク構想」をもっていたが、裏岩菅山に滑降コースを建設するという計画は、この構想の一環だったのである。
 志賀高原に唯一残されている原生林を背にする岩菅山に滑降コースを作るというこの計画にたいして、自然保護団体などが反対運動に立ち上がった。「わずか2週間のオリンピックのために、貴重な自然をぶっ潰していいのか」「会場となるところを利権化し、それを当て込んでリゾート開発をすることは許せない」などという声が高まり、結局、堤義明氏は岩菅山での滑降コース案は断念せざるを得なくなった。
 このほか、たとえば北海道夕張市では「ユウバリコザクラの会」が、八幡町の鳥海山では「鳥海山の自然を守る会」が、群馬県の三国高原では「新治村の自然を守る会」などが、西武が強圧的に進める環境破壊に対して反対運動を起こしている。1990年には、全国規模の「反・国土計画(株)住民運動ネットワーク」も結成されている。


(3)儲けのために、スポーツをも私物化

 すでに述べたように、長野オリンピックの誘致にもっとも熱心だったのは堤義明氏であり、オリンピック開催でもっとも恩恵を受けるのは西武グループである。このように、堤氏は、自社の利益拡大のために各種のスポーツイベントを利用しているが、こうしたやり方にたいしては批判もでている。たとえば、今年6月に開かれた全日本スキー連盟(会長=堤義明氏)の評議員会では、一人の評議員が公然と堤批判をおこなった。『週刊ポスト』(95年7月21日号)や『創』(95年11月号)によれば、批判の内容は次のとおりである。
  1. 日本で開かれるスキーの世界選手権は苗場、雫石などコクド所有のスキー場ばかりだが、これはなぜか。
  2. 堤氏は全国に多くのスキー場を持っていながら、オリンピック選手強化のためには一つのスキー場も利用させていない。
  3. ほかの役員などは選手強化費の獲得を目指してカネ集めをやっているのに、堤氏は会長就任以来10年間、1銭も出していない。
  4. 昨年11月、選手強化費を集めることを目的として赤坂プリンスホテルで「スキーヤーズ・パーティ」が開かれた。1万円の会費で1000人以上が出席し、1200万円も 集まったにもかかわらず、選手強化費にはわずか60万円程度しか回らなかった。堤氏は“経費はすべてホテルで負担する”と明言していたのに、収支報告書を見るとプリンスホテルに400万円が支払われていた。選手強化のためのカネ集めを目的としたパーティで、なぜそんなにカネをとるのか。
  5. これでは、スキー連盟は“コクドを儲けさせるための連盟”といわれても不思議はない。
 この批判にたいして、連盟の会長であり評議員会の議長をつとめる堤氏は返答に窮し、あげくは激怒して退席してしまった。
 このように、堤義明氏は、自らは1銭も出さず、各種のスポーツ団体やスポーツイベントを私物化し、自社の儲けのために利用している。しかし、堤氏がマスコミに対して強い圧力をかけ、マスコミが堤氏についてふれることをタブーとしていることから、このような批判が表に出るのは稀なこととなっているという(前出『創』)。
 スポーツジャーナストの谷口源太郎氏は、堤義明氏や渡辺恒雄氏(読売グループのトップ)がプロ野球、スキー、大相撲、Jリーグなどのスポーツに支配力を及ぼしていることをとりあげ、こう記している。
 「堤氏にしろ、渡辺氏にしろ現実的な利害だけからものをみて、スポーツ文化をつくりだしていくといった理念や理想をもっていない。そういうひとがスポーツ界を揺り動かしているところに、日本スポーツ界の貧困さがあるといえるのかもしれない」(前出『創』)
 また、本多勝一氏(前出)も、堤義明氏のこうした姿勢を痛烈に批判し、つぎのように述べている。
 「自らは税金を払わずに、国民の税金を最大限に我田引水してふとりつづけるこの企業は、自民党政府やその役人など言いなり放題だとみているのだろう。(中略)スポーツ大会を自社の施設でやるためには、国際大会誘致に好都合な全日本スキー連盟会長に就任して公私混同・我田引水し、また国際級のスポーツ選手をどんどん社員にしてコネやコマに使う。近くは長野オリンピック誘致合戦での伊藤みどり氏(フィギュアスケート=コクド系のプリンスホテル所属)を見よ。スキーをはじめとするスポーツで国際級選手になるためには、青春の時間のすべてをその一点に賭けてしまった人が多く、他に就職もしにくいので、こうした企業の言いなり放題である。それにつながる文部省も言いなり放題だ」(『貧困なる精神』第J集、朝日新聞社)




3.西武と千葉県政

(1)西武の下請けと化している県企業庁
   〜夷隅地区レクリェーション用地造成事業〜

 自治体を意のままにあやつり、ゴルフ場用地を自治体に買収させたり、ホテルの用地を自治体から格安で購入する、さらに、ゴルフ場などに通じる道路を税金で整備させるということを、西武は千葉県でもおこなっている。
 ひとつは、千葉県(企業庁)が1972(昭和47)年から御宿町と大原町で進めている「夷隅地区レクリェーション用地造成整備事業」がある。ここは、県が事業主体となっているために県民のためのレクリェーション施設を建設するようにみえるが、実態はまったく違っていて、西武が経営するゴルフ場(大原・御宿ゴルフコース)と、西武不動産が分譲する「高級別荘地」や「分譲住宅地」である。
 この事業について、『千葉県企業庁のあゆみ』(1987年3月発行)にはこう記してある。
 「夷隅地域は、温暖で自然に恵まれ、すぐれたレクリェーション条件を備えているものの、基盤整備の立ち遅れもあって就業機会に恵まれず、過疎化が進行するなど、地域の特性が十分生かされなかった。(中略)そこで、自然環境を保全しながら、この地域の恵まれた自然を活用した観光レクリェーション施設を整備し、地域住民はもとより首都圏住民の憩いの場とするとともに、生活関連施設を含んだ居住区も整備し、人口の定住化を図り、南総地域振興の一拠点とするものである。なお本事業は、昭和48年3月に西武不動産(株)と締結した協定にもとづき、県が用地買収および道路などの基盤整備を、西武不動産(株)が観光レクリェーション施設などの整備を実施することとしている」










 「地域住民はもとより首都圏住民の憩いの場とする」をうたい文句にしているが、ここのゴルフ場は一般の県民や首都圏住民が利用できるような庶民的なゴルフ場ではない。また、別荘地なども、一般県民や一般庶民が購入している例は少ない。さらに、ここのゴルフ場や別荘地が、「南総地域振興の一拠点」となっている形跡はほとんどみられない。
 このように県民生活や地域振興とはまったく無縁のゴルフ場や別荘地などの西武の儲け商売のために、県(企業庁)は「レクリェーション用地の造成」を大義名分にして土地を地元の所有者から買収し、おまけにアクセス道路などを整備してあげて、西武にそっくり譲渡しているのである。
 こうした、まさに“西武のための開発”を千葉県は20年以上も続けている。用地買収や工事を担当しているのは県企業庁出先機関の南総建設事務所である。ここには約20名もの県職員が働いている。これらの職員は西武の下請けとなっているといっても過言ではない。じっさいに、「私たちは西武の下請けと同じ」とボヤく職員もいる。
 ところで、こうした手法は、西武にとってはたいへんなメリットがある。民間企業である西武が用地買収を直接おこなう場合と、県が「レクリェーション用地の造成」を名目にして買収する場合では、土地の購入費などはかなりちがう。県が買った方が買収はスムーズにいくし、金額も安い。おまけに、買収費用も、県が金融機関からの借入金でまかなう。不動産取得税も安くなる。さらに、こうした大規模な開発をする場合はたいへん面倒な開発許可が必要で、地元の町や県、国のそれぞれで数多くの許可や承認を得る必要がある。県についていえば、20以上におよぶ課からさまざまな許可を得なければならない。この場合、事業者が県(企業庁)であれば、許可もたいへんスムーズに進む。そのスムーズさは、民間会社と比べれば雲泥の差である。
 このほか、ゴルフ場や別荘地への道路などを県が手厚く整備してくれる。西武にとってみれば、面倒な用地買収や手続きは県がすべてやってくれ、しかもアクセス道路などもすべて県が整備してくれるというたいへん好都合なものである。


(2)県有地を幕張プリンスホテルに格安で払い下げ

 幕張新都心の一角に幕張プリンスホテルがそびえ立っている。県(企業庁)は1987年、この用地(旧県有地)を格安で西武に払い下げた。値段は、1平方メートルあたり約18万円である。売却当時、周辺の土地は1平方メートル当たり75万円(坪250万円)の値がつけられていたことを考えると、西武は時価の4分の1ぐらいの価格で一等地を手にしたことになる。おまけに、西武は土地代金を5年間払わなくてもよいという優遇措置を受けている。
 さらに、プリンスホテル用地として県が西武に土地を格安で売却した際、「メッセと同時にホテルの開業をめざす」が条件となっていた。ところが実際には、メッセが開業してもホテルはできなかった。“メッセのオープンにあわせてホテルを開業しても、客はあまり入らない”とみた西武が、自社の採算を第一とし、県との約束を破ってホテルの開業を4年も延期したからだった。そのため、幕張メッセは「ホテルなどの宿泊施設を持たない世界的にも例のない“欠陥コンベンション施設”としてのデビュー」(毎日新聞、88年5月13日)となった。本来は、県との約束を破った西武に対して何らかの制裁措置がとられるはずであった。実際に、県企業庁では制裁措置を検討したという。しかし、堤義明氏と沼田知事のトップ会談によって、何の制裁措置もとらないことになった。
 また、この幕張プリンスホテル用地の登記簿上の所有者は西武鉄道(株)である。なぜ、プリンスホテルではなく西武鉄道なのかというと、その理由は「法人税を払わないための巧妙な節税対策の一環」といわれている。
 ちなみに、同じ新都心地区内に建つ中高層住宅は、当時、分譲方式で計画されていたが、その分譲予定価格は1平方メートルあたり45〜60万円(3LDKで5000〜6000万円)とされていた(読売新聞、89年2月17日)。だから、プリンスホテルへの土地の売却価格は集合住宅の1部屋の値段よりもずっと安かったのである。また、高層ビル「幕張テクノガーデン」のフロアは地元企業にも分譲されたが、その分譲価格は1平方メートルあたり約80万円であった。こうしたことをみても、プリンスホテルへの売却価格がいかに安いかがわかると思う。
 県有地を格安で西武に払い下げたことについては、県議会でも問題になった。これに対し、沼田知事は、不動産鑑定士による評価にもとづいて算定した価格ということで、質問をかわしている。しかし、不動産鑑定士による評価だからといって、正当というわけではない。とくに、県の公共工事などにともなう土地の評価をたくさん手がけている不動産鑑定士の場合は、県の意向で評価額がどうにでもなるということは、関係者なら誰でも知っている。じっさいに、プリンスホテルへの売却の際も、「県の意向どおりの価格で不動産鑑定士が算出した」と言われている。




4.おわりに

 以上でみたように、西武は、自らは税金を払わずに、国民の税金を利用してふとりつづけている。本多勝一氏が述べているように、西武グループが国内に保有している土地は四国の面積に匹敵するのではないかともいわれている。しかし、中核企業のコクドが非上場会社であるために、その全貌を知ることは不可能となっている。
 さらに西武は、環境破壊を全国各地で押し進めており、また、自治体を意のままにあやつっている。千葉県も例外でないことはすでに述べたとおりである。
 千葉県政についていえば、沼田知事は、法人税を払わない(法人住民税はわずかな均等割部分のみ)西武のために、県民の貴重な財産(土地)を格安で払い下げたり、西武のゴルフ場や別荘地のためにいたれりつくせりのサービスをしている。本多勝一氏の言葉をかりて言えば、自らは税金を払わずに、国民の税金を最大限に我田引水してふとりつづける西武のために、沼田県政も言いなり放題になっているということである。
 これらはまた、沼田県政の基本姿勢を示す端的な事例でもある。こうした県政が続くかぎり、県民の幸せはない。県政の根本的転換が強く求められている。

(千葉県自治体問題研究所発行『ちば・地域とくらし』第34号、1995年12月、に掲載)   



(注) 本稿は、1995年(長野オリンピック開催前)に執筆したものです。 








夷隅レクリェーション用地造成事業のA地区(西武の別荘地開発)









夷隅レクリェーション用地造成事業のB地区(西武の別荘地開発)









夷隅レクリェーション用地造成事業のA地区(西武のゴルフ場)









西武の別荘地やゴルフ場のために、県がアクセス道路を手厚く整備










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