住民を追い出し、街を壊すスーパー堤防事業

スーパー堤防問題を考える協議会 座長
堀 達雄さんに聞く




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 堀達雄さんは「区画整理・再開発対策全国連絡会議」の代表世話人をつとめている。区画整理事業にたいへんくわしい方だ。その経験をフルに活かし、スーパー堤防反対の住民運動に精力的にかかわっている。


 住民に苛酷な負担を負わせる


 堀さんがスーパー堤防にかかわったいきさつはこうだ。

 「たまたま北小岩地区を訪れたとき、住民の方からスーパー堤防の計画を教えてもらった。寺やお墓もどこかに仮移転しなければならないというので、妙勝寺や真光院、正真寺の住職さんなどが反対運動に立ち上がっていた。いまは『スーパー堤防・まちづくりを考える会』の運営委員長をつとめておられる戸口素男さんたちも大奮闘されていた。話を聞き、これはたいへんだと思った。同じ江戸川区民として、みなさんの運動を手伝うことになった」

 江戸川区はスーパー堤防事業と一体で区画整理事業や道路建設などを進めている。スーパー堤防事業にからませれば、国から手厚い補助がもらえるからだ。しかし、事業対象地の住民はたいへんな苦難を強いられるという。

 「普通の区画整理事業の場合は、仮移転する場合でも、その期間はおおむね1年以内だ。しかも、事業区域の住民が一斉に仮移転することはない。ところが、スーパー堤防事業の場合は盛り土がともなうので、事業区域の住民は一斉に仮移転を強いられる。仮移転の期間は3〜5年におよぶ。これは、戦時中の疎開の期間より長い。仮移転先は自分でさがさなければならない。住民の精神的苦痛は想像を超えるものだ。とくに高齢者世帯や障害者世帯にとっては耐えられない」

 「完成したとされる平井7丁目のスーパー堤防事業の場合、事業着手前は72世帯が住んでいた。ところが、完成後にスーパー堤防の上に戻ってきたのは55%だ。私の聞き取り調査結果でも、4割強の世帯が戻ってこなかった。二度の引っ越しはたいへんな苦痛を強いられるということだ。このように、スーパー堤防事業は、住み慣れた街から住民を追い出すものとなっている。街壊しでもある。そういう事業を、区は平然と強行している。棄民政策といってもよい。これは許せないことだ」


 下流部だけ「点」として整備しても意味がない


 上流の葛飾区はスーパー堤防事業をやらないと聞いている。大洪水時に利根川中流部や江戸川上流部が破堤したり越流したりすれば、江戸川区も洪水被害を受ける。

 「下流部にだけスーパー堤防をつくっても意味がないということだ。しかも、そのスーパー堤防は点としての整備だ。堤防は全部がつながってはじめて意味をもつ。だから、一部が完成したとしてもまったく意味がない。ところが、スーパー堤防がつながるまでに200年とか400年かかるといわれている。つまり、江戸川区は本気で治水を考えていないということだ。“スーパー堤防事業との一体化”を名目に国から多額の補助金を引き出し、大型土木工事を推進することが真の目的となっている」

 「国交省は、スーパー堤防を超過洪水対策として位置づけている。だが、本気で超過洪水対策を講じるのであれば、利根川や江戸川などの流域で遊水地を増設すべきだ。また、堤防強化では、スーパー堤防よりもはるかに安上がりの方策があるので、それを進めるべきだ」


 住民が反対しても強行


 江戸川区が設置した委員会の試算によれば、区内の河川をすべてスーパー堤防にするためには200年かかるとしている。総事業費は2兆7千億円である。
 区は、やりやすいところからスーパー堤防事業を進めている。それも、これまで何百年も洪水被害を受けたことがないという地域で進めている。区施行の区画整理事業だから、たとえ対象区域内の地権者が全員反対しても施行できる。  じっさいに、北小岩1丁目東部地区は、住民の多くが反対しているのに強行である。そのため、住民はスーパー堤防事業の取り消しを求めて東京地裁に提訴した。それでも、区は先行買収を強引に続けている。


 スーパー堤防に関心をもつ区民が増えた


 裁判について、堀さんはこう話した。

 「裁判を起こしたため、スーパー堤防に関心をもつ区民がたくさん増えた。これまで口頭弁論が5回開かれたが、毎回、大勢の区民が傍聴している。とくに第1回から第3回までは、100人以上の区民が傍聴券を求めて裁判所の入り口前に並んだ。口頭弁論が終わったら、毎回、報告集会を開いている。報告集会は、スーパー堤防の実態や問題点を知るうえで絶好の機会になっている」

 「『江戸川区スーパー堤防取消訴訟を支援する会』もできた。大勢の人が会に加わり、住民の運動を応援してくれるようになった。このように、訴訟は運動の広がりにつながっている。地元での運動を強めることとあわせ、全国各地の住民運動とも連携し、なんとしてでもスーパー堤防事業をやめさせたい」
(聞き手・中山敏則、2013年3月)






堀 達雄さん



スーパー堤防事業対象地を案内する堀達雄さん


















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