「先進的な一宮川モデルをめざす」

千葉県一宮川改修事務所が回答

〜「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」が懇談〜




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 全国各地で甚大な水害が頻発している。茂原市など一宮川流域も、想定外の大雨が降るたびに大水害が発生している。住民は「もう水害はこりごり」「行政まかせでは水害を防げない」とし、「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」を結成した。
 「守る会」は、流域全体を考慮した総合治水(流域治水)への転換を求め、千葉県一宮川改修事務所と(2020年)8月25日に懇談した。同事務所は「流域治水の考え方をとりいれ、先進的な一宮川モデルをめざす」とのべた。


50年間で6回の大水害

 千葉県内では昨年(2019年)10月25日、台風21号の影響による大雨で深刻な被害が発生した。人口約9万人の茂原市は、二級河川の一宮川や、その支流の豊田川、鶴枝川、梅田川、小中川の計14カ所で水があふれ、住宅地などが広範囲に浸水した。約3700戸以上の住宅などが被害を受け、2人が犠牲になった。避難所になっていた中央公民館も浸水し、16人がボートで市役所に再避難した。

 茂原市は、1970年7月の豪雨以来、50年間で6回も大水害に見舞われている。その被害は回を重ねるごとに拡大している。県は40年ぐらい前から一宮川などの堤防改修や河道拡幅などをすすめてきた。それでも氾濫した。たとえば中の島地区の堤防900mは前年、30cmかさ上げしたばかりなのに越水した。

 茂原市民からは「大雨が降るたびに自宅が浸水する。茂原から引っ越すしかない」という声もあがっている。そこで県自然保護連合と県野鳥の会、茂原市民は昨年12月、県の担当課と交渉し、茂原市など一宮川流域の水害対策を根本的に見直すよう求めた。真間川流域(市川市など)の事例をあげ、総合治水の推進を強く求めた。

 総合治水は、堤防強化など河道の治水施設の整備だけでなく、全流域を考慮した水害対策である。最近は流域治水ともよばれている。流域における対策には、遊水地(調節池)の整備、雨水貯留施設の設置、透水性舗装の推進、各戸貯留の奨励、盛土の抑制のほか、水害に安全な土地利用なども含まれる。

 市川市などの真間川流域では、住民運動によって県が総合治水を推進した。その結果、浸水被害が激減した。昨年12月の県交渉ではこう要望した。「一宮川でも、先進的なモデルとなるような総合治水を推進してほしい」。

 この交渉がきっかけとなり、一宮川流域6市町村(茂原市と長生郡5町村)の住民が「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」を結成した。今年3月24日である。


総合治水(流域治水)の推進を

 県は一宮川改修事務所を4月1日に発足させた。これにあわせ、「守る会」は4月9日、事務所長に要望書を提出した。

 要望書は、「昨年の水害では、今まで被害を受けなかった住宅などにも被害が拡大し、多くの被災者が水害の恐怖にさらされ、困り果て転居する市民もでています」「もう水害はこりごりです。二度と水害にあわないために貴事務所の今後のとりくみに期待し、私たちも協力することを申し上げます」としている。具体的な対策として、一宮川第二調節池増設の早急な完成や、流域全体を考慮した総合的な治水の推進、地盤沈下対策などを求めている。

 6月2日は、一宮川流域の総合治水や地盤沈下対策などを求める要望書を茂原市長に提出した。7月14日は茂原市の都市建設部長などと懇談した。8月5日は現地を調査した。


国交省が流域治水をうちだした

 いまの治水は、洪水を河道に押しこめ、川からあふれさせないというやりかたを基本にしている。このやりかたでは想定外の大雨には対応できない。河川の流下能力を超える量が流れ込めば、越流氾濫や堤防決壊が起きて深刻な災害が発生する。昨年10月の台風19、21号による甚大な水害はそれを実証した。今年も7月に球磨川(熊本県)や最上川(山形県)などが氾濫し、深刻な浸水被害が発生した。
    〈明治以来、治水の基本はダムと堤防であり、水を河道の中に治めることに力を入れてきた。治水工事をすればするほど、流域の水は河川に集中し、流量は増加する。近年の頻繁な豪雨はそれに拍車をかけ、毎年のように大きな水害が発生している。〉(『東京新聞』2020年7月7日、社説)

    〈阿武隈川では、(1986年8月の)8・5水害レベルの雨でも耐えられるよう「平成の大改修」が行われた。(略)それでも被害が防げなかった。8・5水害を上回る雨が降り、川から越水したり、堤防が决壊したりしたからだ。ダムや堤防は、想定内の雨の時は大きな効果を発揮する。しかし、想定を超えた時はもろい。〉(『東京新聞』2019年11月28日)
 さらに、「洪水をあふれさせない」の致命的欠陥はあふれた場合の対策がないことだ。
    〈「洪水をあふれさせない」という考え方には、必然的にあふれた場合の対策がない、あるいはほとんどないということである。したがって、現実に洪水が河道からあふれてしまった場合には、被害は非常に大きいものとならざるをえない。〉(大熊孝『増補 洪水と治水の河川史』平凡社ライブラリー)
 国交省は今年7月6日、流域治水をうちだした。これは、建設省(現国交省)の河川審議会が1977年6月に発表した総合治水とほとんど同じである。流域治水の内容はこうだ。
    〈堤防やダムだけに頼らず、貯水池の整備や土地利用規制、避難体制の強化など、企業や住民も参画する「流域治水」への転換を明記。(略)具体的には、時間と費用がかかるダムや堤防の整備だけではなく、土砂災害などの危険がある地域は開発を規制し、住宅移転も促進。調整池、ビルの地下貯水施設整備などで雨水をあらゆる場所でためられるようにする。〉(『東京新聞』2020年7月7日)

流域治水のイメージ




「先進的な一宮川モデルをめざす」

「守る会」は8月25日、県一宮川改修事務所と懇談した。流域治水(=総合治水)の推進を強く求めたのにたいし、県はこう答えた。
    「これまでの一宮川河川整備計画では一宮川の上流域と支川は整備計画の対象に位置づけていなかった。そこで『一宮川上流域・支川における浸水対策検討会』を6月29日に発足させた。構成メンバーは、河川の専門家(東京工業大学名誉教授)、都市計画の専門家(東京大学教授)、国交省国土技術政策総合研究所の研究官、国交省関東地方整備局地域河川課長、県の関係部局の課長・所長(6人)、茂原市の副市長、長柄町の副町長、長南町の建設環境課長の計13人である」

    「上流域と支川の浸水対策は流域治水の考え方をとりいれることにしている。流域治水は国土交通省が先月うちだしたばかりだ。その事例はまだない。検討会で合意されているのは、先進的な考え方を一宮川で推進することだ。一宮川でうまくいけば(流域治水として上流域・支川の浸水対策を検討できれば)、先進的な一宮川モデルとして対外的に発表できるのではないか。それがメンバーの共通認識になっている」
 昨年12月の県河川整備課交渉や、今年4月9日に「守る会」が県一宮川改修事務所に提出した要望書の効果がでた。
 しかし、総合治水がそうであったように、行政まかせでは流域治水も掛け声倒れに終わる。流域治水(総合治水)を具体的に推進するためには、住民の働きかけや協力が欠かせない。「守る会」は流域治水の実現をめざし、さまざまなとりくみをすすめることにしている。











茂原市の都市建設部長など(手前右)と懇談する「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」のメンバー
=2020年7月14日、茂原市役所で



千葉県一宮川改修事務所(右手前)と懇談する「豪雨から茂原・長生の住民を守る会」のメンバー
=2020年8月25日、県長生合同庁舎



浸水被害の写真を見せながら水害対策の抜本的見直しを県に求める茂原市民
=2019年12月13日、千葉県庁舎










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