ふるさとの水と地域の誇りを守るために

─新井総合施設産廃処分場増設許可取り消し訴訟における意見陳述─

「ふるさとの水を守る会」共同代表 金森春光さん



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 新井総合施設鰍フ放射性廃棄物処分場(産廃処分場)増設許可取り消しを求める行政訴訟の第1回口頭弁論が2019年4月16日、千葉地裁で開かれました。「ふるさとの水を守る会」共同代表、金森春光さんの意見陳述を紹介させていただきます。




県内唯一の「平成の名水百選」

 私たちのふるさと君津市には、上総掘りによる自噴井戸が1342本存在します。なかでも小櫃川・御腹川水系の小櫃・久留里・上総地区では、722本の自噴井戸から春・夏・秋・冬24時間、豊富な地下水がこんこんとわきでています。

 久留里の井戸水は平成20年に千葉県下で唯一、「生きた水・久留里」として「平成の名水百選」に選ばれました。水質やその美味しさから、遠方からわざわざ足を運び、道のほとりで水をくむ人の姿もめずらしくありません。

 この井戸の水は、清澄・三石山系の山林に降った雨が地層を通ることで天然のろ過を受け、豊富な被圧帯水層から湧きでてきます。その良質な地下水の恵みをもたらしたものが上総掘りです。


君津市で誕生した上総掘り

 小櫃川は利根川に次ぐ県下第二の長流で、延長は88キロです。房総丘陵の清澄山系に水源を発し、君津市と袖ケ浦市を貫流して木更津市で東京湾に注ぎます。私たちのふるさとは、小櫃川と、その支流の御腹川を有しながら、耕地と川の高低差が大きい「河岸段丘」により河川水を利用する利水に非常に苦労した地域です。慢性的な水不足から、「嫁にやるな、婿に来るな」と言われた地域でした。先人にとっては、飲料水、生活用水、農業用水として水の安定確保が切実な願いだったのです。

 古くから日本では人々が生活する水を確保する方法として、豊富な地下水を利用するいろいろな種類の井戸が創りだされました。単に穴を掘るだけの「掘り井戸」から、江戸時代には鉄棒などによる「突き掘り」が主流となっていました。

 明治期に確立された画期的工法が、私たちの君津市で誕生した上総掘りです。上総掘りは、地中の圧力を受けた被圧滞水層まで貫通することにより自噴水を得る独特な技法です。わずか3、4人の人力と身近な孟宗竹を組み合わせた上総掘りの初期技術は、君津市の小糸川流域や小櫃川流域で文政年間(1818〜1830年)に開発されました。職人たちのたびかさなる改良の結果、明治20年(1887年)ごろにようやく600mほどの大深度被圧帯水層まで貫通する掘削の技術が完成したといわれています。上総掘りの技術は、多くの先人たちが実践しながら試行錯誤し、長い年月の中で技術革新と伝承の繰り返しによって普及していった先人の辛苦と知恵の結晶なのです。

 この井戸掘りの労力軽減が君津地域の自噴井戸の急速な広まりを助け、耕作地の拡大に飛躍的な効果を発揮しました。その後、上総掘りは日本各地に広がりました。生活用水、灌漑用水の深井戸の掘削技術の主流となり、天然ガスや石油、別府温泉の掘削などにも利用され、近代産業に重要な役割をはたしました。今も、水不足に悩む東南アジアやアフリカの地域でその技術が生かされています。上総掘りの技術は平成18年に重要無形民俗文化財に指定されました。

 今もなお地域に点在する上総掘りは、私たちの生活の中に深く息づいています。豊富で良質な井戸水の恩恵は大きく、飲用・生活用水はもとより良質な地下水による四つの酒蔵の清酒造り、豆腐、おいしい米の水稲栽培などに広く利用され、とくに自噴井戸水のかけ流しで栽培される花のカラーは全国一の生産量を誇ります。

 私たちのふるさとは水の利用に苦労した先人たちの辛苦の末にようやく上総掘りによる豊富な地下水の利用、また蛇行していた河川を人工的にショートカットし水が流れていた蛇行部分を水田にする川廻し、さらに小櫃川上流の耕作地と同じ標高地点からトンネルを使って水を引き川の水を農業用水として利用する『二五穴用水』などにより、初めて小櫃川・御腹川の河川水利用が可能となり、広大な田園や水をよりどころとする産業を私たちに伝えてくれました。

 渇いた土地は豊かな実りをもたらす大地へと生まれ変わりました。水は生命の源泉です。私たちの地域はこの天恵の水によって繁栄してきました。


水源地の産廃処分場で漏えい事故
 〜にもかかかわらず県が増設許可〜

 その私たちの誇る大切な清らかな水の水源地に、首都圏最大規模とうたう新井総合施設株式会社の産業廃棄物処分場が存在します。さらに事業者は処分場を倍増する第V期処分場増設を計っています。増設されれば日本有数の産業廃棄物処分場となります。

 しかしこの処分場は平成24年11月に第T期処分場で漏えい事故を起こし、現在も搬入停止状態がつづいています。この処分場の構造は、「準好気性埋立構造」で発生したガスを大気中に放出拡散し、雨水浸透により廃棄物を浄化したうえで浸出水を処理し御腹川に放流するものです。

 ところが現状の第T期処分場は、上部を遮水シートでキャッピングし、雨水の浸透を防いだうえで、内部保有水のポンプアップを数年間つづけているにもかかわらず、いまだに内部保有水の水位の下降がみられません。処分場としては完全に根本的機能を喪失した状態がつづいたままとなっています。

 そんななかで平成30年8月6日、千葉県は新たな第V期処分場増設事業にかかる変更許可をだしました。


自噴井戸の地下水が汚染される

 その直前の平成30年4月5日、新井総合施設は突如として自らがそれまで強く主張してきた見解を方針転換しました。それまでは、処分場の地層と上総掘り自噴井戸群取水層である被圧帯水層は異なる地層で、その間には不透水層が存在するため処分場で事故があっても上総掘りや御腹川、小櫃川にはまったく影響を与えないととなえていました。ところが、文書で「地層が異なっていても地下水が混ざりあうことを前提として安全対策を検討すべきとのご意見をいただきました」とし、それにより「敷地境界の外側へ汚染を拡大させない対策を行うことが何よりも重要なことと考えております」との新たな方針をだしたのです。

 この新井総合の見解の突然の転換を受け、その後の私たちの調査で以下のことが判明しました。

 平成26年9月22日に行われた千葉県環境影響評価委員会で、水文環境担当委員から「川の断面は一様ではなく、砂層と接する部分などがあるため、必ず川の水から地下水へ涵養される分がでてくるはずである。表流水に放流したからといって、地下水へ影響がないというのは専門的見地からはいえない」と指摘されました。さらに平成27年12月18日、同じ委員から「上下での水の交換が起きる。地層に沿って水が流れるわけではないので、帯水層が異なるので影響がないというのは、現在の地下水学の観点からは認められない見解である」ときびしく指摘されていたのです。

 この新井総合施設の方針転換により、千葉県は初めて県議会「環境生活警察常任委員会」の委員に対し、これまでは一貫して審議内容を非開示としてきた平成29年8月25日「千葉県廃棄物処理施設設置等審議会」の審議内容を公表しました。そこでもまた、「久留里には自噴井戸が多いことから、地下水が上昇しようとする力が強いと考えられ、地層が異なっていても地下水が混ざりあう可能性が高い。したがって、処分場の地層と自噴井戸取水層の地層が同じか否かにかかわらず、万が一、処分場から漏えいが生じ、敷地外へと汚染が広がってしまった場合には、久留里の自噴井戸の地下水が汚染される可能性も否定できない」と、上記とは別の水文環境担当委員からもきびしく指摘されていたのです。

 これらの水文環境の専門家からの指摘は非常に重大で深刻な事態です。地下水および表流水が汚染されれば取り返しのつかないことになります。


35万人の命の水を守るために

 第V期処分場の排出水によって御腹川の水質悪化がすすめば、御腹川や小櫃川から取水する農業用水に重大な影響を与える可能性はもとより、その御腹川の表流水が地下に浸透することによって久留里や小櫃の上総掘り自噴井戸群も水質悪化の可能性があります。さらに今後万が一、第T期処分場のように漏えい事故が起きた場合には、地下水の汚染により御腹川や下流の大寺浄水場で木更津市、君津市、袖ケ浦市、富津市、千葉市、市原市の35万人に水道用水を供給する小櫃川、また「平成の水百選」に選ばれた「生きた水久留里」に代表される小櫃・久留里・上総地区の上総掘り自噴井戸群に甚大な被害がでる可能性が大きくなります。私たちはそれを非常に危惧しています。

 川で遊び、川で育ち、上総掘りの清らかな水でのどを潤し育まれた私たち。今もさまざまに水の恩恵を受け暮らしをたてている私たち。その愛するふるさとの清らかな水を、そして地域の誇りを守るため、千葉県による新井総合施設(株)君津環境整備センター第V期処分場にかかる変更許可の取り消しを求め、私たちはここに行政訴訟を提起いたします。


    〈注〉タイトルと小見出しは千葉県自然保護連合事務局がつけました。




デモ行進でマイクをもってコールする金森春光さん=2019年6月28日、千葉市内(中山敏則撮影)


君津地域の放射性廃棄物埋め立て地





放射性廃棄物処分場「君津環境整備センター」



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